分子薬物動態学教室

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Researches研究内容

5.小児肝臓難病の病態解明、診断・治療法の開発に関する研究

 肝内胆汁うっ滞が病態の発症・進展の原因となる肝臓難病が多数存在する。現在、当該難病には有効な治療法は確立していない。一部の難病には肝移植が著効するが、肝移植は極度の身体的負担に加え、ドナー不足の問題も抱える治療法である。そのため、当該難病を包括する新たな医薬品の開発が切望されている。

 Bile salt export pump(BSEP)は、肝細胞の毛細胆管に面した細胞膜に発現し、肝細胞内の胆汁酸を毛細胆管中へと排泄するABCトランスポーターである。BSEPの遺伝子変異が原因で発症する進行性家族性肝内胆汁うっ滞症2型(PFIC2)は、上記のうち最も重篤な肝臓難病の一つとして知られる。当研究室では、本疾患の肝内胆汁うっ滞が、BSEPの細胞膜発現量の減弱に起因することを明らかにした後、本機序に基づく創薬研究を推進し、尿素サイクル異常症治療薬のブフェニール(NaPB; sodium phenylbutyrate)が、BSEPの細胞膜発現量を増強する新規薬理作用を有することを独自に発見した。さらにPFIC2患児3例を対象にNaPBの有効性、安全性を検証する探索的臨床試験を実施し、本薬剤の服用により、全てのPFIC2患児において臨床所見(黄疸、原疾患に伴う難治性掻痒感・睡眠障害など)、肝機能検査値、肝組織病理像が有意に改善することを確認した。これらの知見に基づき、現在以下の研究を実施している。

①PFIC2を対象としたNaPBの有効性と安全性の検討を目的とした治験

 NaPBを通常医療としてPFIC2患児に使えるようにするため、NaPBの上記効能に関する薬事承認取得に向けた取り組みを開始している。PFIC2を含む小児肝臓難病の多くでは国外、国内問わず疾患情報が集積されていない。そこで全国の小児肝臓病の専門医、関連学会などにご支援を頂き、これら疾患群の疾患自然歴、国内症例数などを把握するために全国疫学調査を実施した。そして本調査結果を基盤としたプロトコル作成を行い、2016年より治験を開始した(UMIN000024753)。

➁NaPBより高活性のBSEP増強剤の開発

 PFIC2以外にもBSEPの細胞膜発現量の減弱が病態進展と関連する肝疾患が多数知られている。当研究室では、NaPBが当該疾患にも有効である可能性を示すエビデンスを臨床研究により取得している。しかしながら、当該薬効の発現には高用量が必要なため、自覚症状が速やかに改善する疾患を除き服薬アドヒアランスの低下が観察された。また、疾患によっては自己肝での生存期間の延長が期待できるほどの十分な臨床効果が得られなかった。そこで、製薬企業などの協力を得て、NaPBに比して高活性の医薬品開発を指向した研究を進めている。

➂独自に集積した臨床情報、生体試料を基盤とした小児肝臓難病の克服研究

 上記研究を通じて集積した臨床情報、生体試料は、小児肝疾患領域において貴重なリソースである。当該疾患分野の研究基盤の確立、ひいては患児への還元を目的とし、これらのリソースを共有、拡充するシステムの構築を進めている。また本リソースを利活用した仮説検証により、病態機序が不明の難病、診断・治療法が未確立の難病の克服に向けた研究を展開している。

④トランスポーターの分解機構を標的とした創薬研究

 近年、動脈硬化症などの生活習慣病から希少難病に至るまで、トランスポーターの活性化が、病態発症・進展を抑制できると考えられる疾患が多数同定されている。これら疾患の多くでは、既存の医療で十分な治療効果が得られておらず、新たな医薬品開発が切望されている。当研究室は、NaPBが、BSEPの分解機構を抑制することにより、BSEPの細胞膜発現量、機能を増強し、上記臨床効果をもたらすことを見出している。本実例に則し、トランスポーターの分解機構に着目した創薬研究を実施している。

図1

図1 子供の肝臓病克服へ CIRCLe 詳しくはこちら

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