分子薬物動態学教室

分子薬物動態学教室

Researches研究内容

4. 薬物間相互作用の解析

 通常、臨床での薬物治療を考えた場合、単剤による治療よりむしろ複数の薬物が併用投与されるケースが多く、時として予期せぬ作用減弱や副作用発現が見られるケースがある。我々は特に、薬物動態学的相互作用、すなわち薬が作用標的部位(レセプターなど)における濃度推移を支配する各段階(代謝酵素、トランスポーター)における相互作用に着目し、in vitro実験系の結果から、in vivoでの相互作用を定量的に評価しうる実験系の構築を目指して研究を進めてきた(図5)。代謝酵素における相互作用については、主に第1相酸化代謝に関わるCYP (cytochrome P450)における酵素反応の競合、非競合阻害が最もよく研究されてきているが、他にも、リファンピシン、フェノバルビタールなどにより引き起こされる酵素誘導による併用薬の代謝の促進、また、代謝産物が酵素自身と共有結合するなどして酵素を不可逆的に阻害するmechanism-based inhibitionなどが挙げられる。我々は、これらに対してアプローチするため種々の数学的モデルを提案し、in vitro実験から得た速度論的パラメータを用いてin vivo実験における血中濃度の変化を良好に予測しうる事を実証してきた。その方法論の一部は、厚生省のガイドラインにも相互作用のfalse negativeを避けるための予測法として導入されており、実際の創薬現場でも適用されている。また、トランスポーターに関しては代謝酵素に比べて歴史が浅く、現在精力的に研究がすすんでいる。当教室では、cyclosporin Aとcerivastatinの相互作用メカニズムとして、肝取り込み過程のトランスポーターを介した相互作用である事をin vitroおよびin vivo実験の両方を用いて定量的に示し、トランスポーターにおける相互作用も無視できない事を広く世にアピールする研究となった。今後、創薬段階や、臨床において重篤な相互作用を未然に防ぐためのアプローチを提唱すべく、分子生物学的手法と速度論的思考を統合した研究を進めていくつもりである。

図1 生理学的薬物速度論に基づいた薬物体内動態の予測

図5 薬物間相互作用のターゲットサイト

<< 前のページに戻る