分子薬物動態学教室

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Researches研究内容

2. 薬物の血液脳関門および血液脳脊髄液関門透過機構の解明、および脳内動態予測法の確立

 In vivo系での中枢における薬物動態を予測するためには、血液と中枢とのインタフェースとなっている血液脳関門・血液脳脊髄液関門を介した薬物輸送能力を知ることが必要である。In vitroならびにin vivoでの解析を通じて、多くの興味ある事実が見出された。血液脳関門・血液脳脊髄液関門の関門機構はこれまで内皮細胞間あるいは上皮細胞間の密着結合などに由来するものと解釈されてきたが、最近の速度論的、分子生物学的研究により、”いったん脳内皮細胞に取り込まれた異物が、P-glycoproteinなどのトランスポーターの働きにより能動的に血液中に汲み出されているために正味の脳移行が制限されている”ことが明らかにされている。加えて関門では抱合酵素なども発現しており、血液脳関門・血液脳脊髄液関門は、これまで考えられていたような静的な壁ではなく、トランスポーターや代謝酵素など異物解毒機構により構成されるよりダイナミックな障壁であることが認識され始めている。

 中枢から血液中へのくみ出し過程には、脳実質内・脊髄液内から内皮・上皮細胞内への取り込みと細胞内から血液中へのくみ出しの2つの過程から成り立っている。当研究室で最近開発された脳排出指標 (Brain Efflux Index)を測定する方法論や単離脈絡叢を用いた解析から、有機アニオンの場合、細胞内から血液中へのくみ出しだけではなく、脳側から細胞内への取り込み過程にもトランスポーターが働いていることが示されている。両者が協関する事で方向性のある輸送が達成され、効率的に異物を排出していることが示唆されている。これまでに、脂溶性の高いbulkyな有機アニオンを基質とする排出輸送機構と水溶性の有機アニオンを基質とする排出輸送機構が存在している事を明らかにしている。最近、多くのトランスポーター遺伝子が単離されており、そのいくつかは関門での発現が報告されている。トランスポーターに対する阻害剤を用いた解析により、肝臓型の有機アニオントランスポーターであるorganic anion transporting polypeptide (Oatp/OATP) familyが脂溶性の高い有機アニオンの排出に、腎臓型の有機アニオントランスポーターであるorganic anion transporter (Oat/OAT) familyが水溶性有機アニオンの排出にそれぞれ関与していることを見出している(図2)。これらトランスポーターにより細胞内への取り込み過程の多くが説明されるが、その後の血液中への排出過程に関わるトランスポーターについてはほとんど明らかにされておらず、現在検討を行っている。関門における排出輸送の個人差は、脳内濃度の個人差ひいては薬効・副作用の個人差の一因となりえることから、ヒト有機アニオントランスポーターの遺伝子多型、また同じく脳内濃度に影響を与える要因として薬物間相互作用に着目し、現在検討を進めている。

図1 生理学的薬物速度論に基づいた薬物体内動態の予測

図2 血液脳関門・血液脳脊髄液関門を介した異物排泄機構の模式図

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